Water Margin (3)
2.Thunderbolt
1109 年 2 月
青州、二竜山、夜。宋江からこの二竜山を託されて以来、林冲は二竜山からあまり動かなかった。塩の道については指示だけを出す。実際に動くのは朱武や曹正。二竜山の軍については関勝が掌握している。その下で雷横が騎馬隊を、朱仝が歩兵を纏めている。軍は騎馬隊が千二百、歩兵が千五百。かなり騎馬隊が多い。三回、青州軍の攻撃を受けた。全て跳ね返している。犠牲も殆ど出ていない。
その防衛戦の指揮も関勝に任せた。林冲は武術が苦手だ。槍はなんとか人並みに使うことが出来る。他はからきし。それだけが戦では無い。だが、自分が出る幕も無いだろう。
林冲は情報の分析と指示を専らにしている。自分で間諜を持っている。石勇が時遷の情報も運んでくる。朱武なども独自に情報を集めている。居室で朱武と話し込む事も多い。朱武とは親しい間柄だと思っている。
青州の塩を扱っている限り、あまり危険は無い。晁蓋も盗賊の山塞に偽装した拠点で塩を扱っていることにまだ気付いてはいない。
林冲は青州の製塩所から済州までの運送を担当していた。その他に解州の情勢も探り続けていたが、これは厳しいと言わざるを得ない。解州に闇の塩の流れを作ろうとした西門慶は晁蓋に追捕された。それ以降解州には一切手を出せていない。
済州から開封府への運輸は今は戴宗が掌握している。済州と開封府の往復を繰り返していた戴宗がそれを担当するというのは自然な流れだった。戴宗が表面に出ているという蔡京と宋江の取引。それには興味を持たなかった。
今、林冲が気にしていること。新任の青州軍の指揮官。秦明。将軍としてはかなり若い。といっても林冲よりは五歳上だ。開封府から青州に転出してきている。元々は童貫の直接の指揮下に入っていた。それが青州に出てくるというのはかなり不自然と言える。
童貫。宦官である。禁軍第一の名将と言われている。西夏との戦を続け大勝利を得ている。戦の記録を読んだことがあるが、この世のものとは思えない指揮をしている。侵入を繰り返している吐蕃への攻撃計画を立てているという情報もある。その童貫は人材を抱え込む傾向が強い。その指揮下の将校が将軍として地方に転出してくるというのは何かある。何かあると思っているだけで、それ以上のことは読めない。
「林冲、入るぞ」
朱武。二竜山から済州への塩の運搬を主に担当している。製塩所から二竜山への道を担当する曹正への指示も朱武から出ているので、塩の道の実質の責任者だと言えた。
「解州は駄目だな。花子虚がやられた。樊瑞が出てきてる気配もある」
「樊瑞か。遼に入っているという情報であったが、こちらにも手を出してきているか。さすがに手強いな。解州からは一度手を引いた方がいいかも知れんな。それで、用がそれだけということはあるまい 」
「察しがいいな。秦明のことだ」
「秦明か。やはり何か出てきたか」
「滄州横海郡の柴進と繋がっているな」
「小旋風などと呼ばれている男だな」
「ああ。それでだ。秦明は柴進と共謀して塩の密売や軍需物資の横流しに手を出している気配がある。それもかなり複雑な手を使っているな。一朝一夕に出来ることじゃない。柴進と繋がっていたから青州に出てきたと考えるべきだろうな」
朱武の分析は鋭い。関勝は山塞の軍を完全に掌握している。この山塞における自分の役割は何であろうか。そんなことをふと考えることがある。宋江に任されたからこの二竜山に来た。だが、この場所で自分の役割を見つけられていないという思いがある。
朱武は、林冲が来てから塩の道の運営効率が良くなったなどと言う。それも世辞なのでは考えることがある。
「軍の将軍様がやっていることは我らと同じか。しかしこれは厄介なことだな。まずは秦明の動きとその目的を探るべきかな。解州の探索に使っていた手の者達を秦明に当てよう。青州の塩の道の守りは今のままでよかろう。曹正への指示はお前に任せる」
「そんなところかな。酒でも飲もうか、と言いたいところではあるが、野暮用があってな。ここで失礼する。俺の手の者についてはお前の方針に従う形で俺の判断で動かさせてもらう。それでいいな」
「ああ、それでいい。朱武、酒を飲む時間ぐらいは作った方がいいぞ」
朱武は笑いながら部屋を出ていった。
陸謙の上げてきた報告書を読む。陸謙は林冲の使う間者の頭だ。二竜山に来る前からの付き合いになる。晁蓋のところの李袞が複雑に動いている。南京応天府、密州、青州、いろいろな所に顔を出している。
李袞はこれまでの動きと大分違う動きをしている。何をやろうとしているのか読めない。これまでの李袞がこのような動きをする、出来るような男だったか。李袞の後ろに誰か付いている。
樊瑞か。しかし樊瑞は自分の手下を持っている。李袞を使う意味はあまり無いと言える。南京応天府にまで手を出す余裕も無いだろう。では他に誰かがいる。
それ以上のことは読めない。経過を見るしかない。済州などの動きは戴宗に任せるしかない。
戴宗は、友だという思いがある。しかし、二竜山を任されてから一度も会ってはいない。石勇を通じた情報の遣り取りがあるだけだ。
再び、林冲は、自分がここにいる意味を考える。もともと流れ者だった。宋江の目に止まったのはまさに偶然だ。宋江の下での仕事はそれなりにこなしてきた。それなりに。それが、塩の道の最重要拠点を任されている。朱武も関勝も優秀だ。自分がいる意味は分からない。しかし朱武も関勝も自分を認めている。
何の為に宋江の下で働いているのか。思考はそんなところにも至る。
戴宗なら何と言うだろうか。金の為だ。そんな頼もしくも分かりやすい答えが返って来るに違いない。
営舎の外に出た。歩哨の兵の呼び交す声が聞こえる。月が明るい。
*目次/注釈
http://ssig33.g.hatena.ne.jp/ssig33/20090126/1232979880